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空き家からはじまる新しいまちづくり

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『杉本青果店』 店主 杉本晃章さん

野菜の目利きとして 情熱ほとばしる八百屋

 

近年では、住みたい街ランキングにも登場するようになった千住。

交通の便がよく、駅ビルもあり、グルメな人が集う飲食店も続々とオープンし、

一方で昔ながらの商店街や路地、銭湯、古民家など、昭和っぽさも色濃く残っています。

 

そんな新旧が交差する千住のまちの中でも、

東京電機大学の誘致で大きく変わりつつある北千住駅の東口エリアを中心に、

そこで働く人、暮らす人を紹介していきます。

 

今回は、メディアでも“おいしい野菜を日本一知る八百屋”として特集される『杉本青果店』の店主 杉本晃章さんを紹介します。

 

―まちの八百屋なのに 全国に広がるファン―

 

北千住駅東口から始まる学園通り商店街を歩くと、威勢のよい呼び声が耳に飛び込んできます。店先には色とりどりの野菜や果物がぎっしり並び、何人もの店員さんがお客さんに野菜の説明をしたり、会計をしたりと、賑やかな商店街の中でもひときわ活気づいています。

 

店主の杉本晃章さんに美味しい野菜の見分け方を聞くと、「うちは美味しいものしか置いてないよ! みんな、スーパーに行って見た目のよさや美味しそうなものを選んで買っているけど、そもそも美味しい野菜を置いていないんだから、一生懸命選んだって意味ないよ」とキッパリ。この八百屋は、その道のプロを紹介するテレビ番組でも取り上げられるなど、確かな目利きに全国にファンを持っていて、地元の飲食店の料理人も仕入れに訪れる。杉本さんは店に立ちながらも、講演会の講師として農協や大手小売店、学校などで野菜をテーマに講演をするため、全国を飛び回っています。杉本さんが留守でも、家族がしっかり店を守っています。

店主の杉本晃章さん。この道ひと筋50年以上。

 

―生き残るために見つけた 目利きへの道―

 杉本青果店は2020年で創業70年を迎える。杉本さんの父親が始め、杉本さんは2代目として店の名を全国区に押し上げました。一緒に店に立つ息子の栄士さんは3代目として、晃章さんの背中を追っています。家族経営の八百屋で跡継ぎがいる店は、このご時世でかなり少ないと杉本晃章さん。

「八百屋が最も多かったバブルの時代は、都内だけで1万600軒もあったんだ。でも、今は何軒だと思う? 全国で8000軒、都内なら1500軒しか残っていないんだ。ここ30年ぐらいでコンビニやスーパーは増えたし、外食する人も多いから、個人で八百屋の経営を続けていくのはかなり難しい状況だよ」と現状を嘆きます。

そんな厳しい状況を肌で感じ、杉本さんは野菜の目利きとして生き残る決心をしました。

「いろんな品種を自分の舌で確かめる、産地に何度も通う、なんでこの品物を店に置いているのかお客さんに自分の言葉で伝える。そんなことを続けて、いつも自信があるものだけを仕入れていったら、遠くからもわざわざ買いに来るお客さんもできたんだ。うちはどの野菜を選んでもらっても、アタリだよ(笑)」(杉本晃章さん、「」内以下同)。

野菜は旬だけでなく品種も頭に入れ、その中からとっておきを仕入れなければなりません。現場に10年いなければ、品種もお客さんの好みも変わり、八百屋としてやっていかれないと杉本さん。

「自分は八百屋を50年以上やっているけれど、最近は品種改良のサイクルも短いから、いつまでもゴールがないんだ。だから専門家の先生を招いたりして、自分で勉強会もやっているの。そのおかげで、俺は150種類ぐらいの野菜は全部頭に入っているんだ。

でもね、最近は美味しさよりも、見た目や日持ちばかり考えた品種改良が多くてね。なるべく多くのものを同じ形、大きさに揃えた方がよいし、日持ちした方が一度に大量に仕入れられてコストも抑えられるもんね。きゅうりなんて、ひと昔前は3日しか日持ちしなくて、八百屋では1日で売り切るのが常識だったんだ。でも今は品種改良で皮を硬くしているから、買って帰って1週間冷蔵庫に入れていたって元気だろ? でも、味は昔に比べるとぼんやりしているよ。俺はちゃんと美味しい野菜が頭に入っているから、市場に仕入れに行っても美味しいものが見分けられるし、農家さんとの繋がりもあるからよそではあまり出回らない野菜も売れるんだ」。

―稀少な野菜の美味しさを広める―

そんなこだわりのひとつが、白菜の原種ともいわれる“山東菜”という葉野菜。仕入れて漬物にして冬に販売し、店の名物にもなっています。最近はネット注文で地方に住む若い人からの注文もあり、昨年の冬は通販で120件も発送したそう。

「山東菜は足立市場では扱っているけれど、年間10日ぐらいしか市場に出ない貴重な野菜なんだ。ひと昔前では世田谷や川崎でも作っていたけれど、畑がだんだんなくなって今は埼玉の南でしか作っていない。白菜より味がしっかりしていて、これを好むお年寄りも多いんだよ。品種改良すればいろいろな地域でも育つようになるんだろうけど、採算とれないものは種屋は改良しないからね。今では珍しい野菜を紹介できるのも、うちの強みでもあるんだ」。

名物の山東菜の漬物は、1枚800円。独特の苦みや酸味は、白菜とはまるで違う味わい。

 

―紆余曲折あった八百屋人生―

 八百屋として美味しさを求めるストイックさからは想像がつきませんが、店を継ぐことに抵抗していたと時期もあったといいます。

「小学生の頃から父親に足立市場まで連れて行かれて、学校から帰るといつも店の手伝いをさせられていたんだ。後を継ぎたくなくて、高校は工業高校へ。卓球部で夜遅くまで練習して、休日はワンダーフォーゲル部で山登りをして、家に寄り付かないようにして好きなことを楽しんだよ。でもね、好きな山登りを思う存分するには、働いて稼ぎを得なきゃならない。そこで仕方なく家業を継ぐことにしたんだよ。

父親から代替わりしてからは、安く売ってお客さんをつかむことばかり考えていたけれど、今までのお客さんが離れちゃってね。それからは意識を変えて、本当に美味しいものを選べる力をつけて信頼される八百屋になろうって努力したよ。美味しい野菜を真摯に作っている農家さんを見ると、応援したくなるしね。野菜嫌いの子ども達が食べられるぐらいに、この店には美味しいものしか置いていないよ」。

杉本さんは千住生まれの千住育ち。70年以上このまちで生きてきた杉本さんですが、大学の誘致でまちに若者が増えても、八百屋に足を運ぶ客層には大きな変化はないと話します。

「東京電機大学が店の近くに移ってきて、6000人もの学生が毎日出入りしているといわれているけれど、若い子たちはあんまり料理しないから…。駅前はチェーン系の安い飲食店も多くて、そこで足が止まっている印象はあるよね。美味しいものを食べよう、そういうものを作っている農家さんを評価しようって思えば、自ずと自分の食べるものの意識も変わるんだけどねえ。まちにはまだまだ下町人情も残っているし、学生にはもっとまちに出て興味を持ってもらいたいよね。

一方で、個人経営の飲食店も増えていて、そこで働く若い料理人はうちの店に通ってくれてるよ。それはうれしいし、個人で商売をしている人には、このまちで頑張ってもらいたいね」。

 

杉本さんは現在(2020年5月)72歳。吹きさらしで夏は暑く、冬は寒く、おまけに力仕事も多い…。心配すると、「朝早いし、夜遅いし、八百屋は体力を使う仕事。でも、俺は生まれた時から覇気が違うんだ!」と一喝。ハッキリ物を言う杉本さんは一見怖そうですが、質問すると真摯に熱く答えてくれ、知らなかった野菜の世界を教えてくれます。持ち帰った野菜は、杉本さんの目利きはもちろん、情熱がこもって、力強く濃い味に感じられました。

<お店データ>

杉本青果店

千住旭町13-10 ☎03・3881・3216

【営業時間】

9:30〜19:00

【定休日】日曜

※この記事は、『町雑誌千住』Last号の取材記事をもとに構成しています。

※2020年5月現在、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、営業状況は上記の通りではありません。

イラスト:秋山弥生

取材・原稿リライト:西谷友里加

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