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空き家からはじまる新しいまちづくり

PEOPLE

『AAPA』上本竜平さん 永井美里さん

 

ー人やまちとの繋がりを通して
日常から生まれるダンスを広げるー

 

近年では、住みたい街ランキングにも登場するようになった千住。
交通の便がよく、駅ビルもあり、グルメな人が集う飲食店も続々とオープンし、

一方で昔ながらの商店街や路地、銭湯、古民家など、昭和っぽさも色濃く残っています。

そんな新旧が交差する千住のまちの中でも、
東京電機大学の誘致で大きく変わりつつある北千住駅の東口エリア。
近年は空き家や古い建物をリノベーションして、
新しい価値を生み出している人が増えています。

団地1階の空きテナントをリノベーションしてダンスのスタジオを構える『AAPA(アアパ)』のお2人に、この建物を通して広がっていく活動について聞きました。

 

永井美里さんと上本竜平さん

―団地の中にあるダンススタジオ―

 

北千住駅東口を出た通りにある千住旭町商店街。
ほどなく左折して進むと、道幅は狭くないのにだんだん静かになり、突如現れる白くて高い建物。ここは700戸以上ある日の出町団地。敷地に入ってみると、1階に床屋などの商店がちらほら見受けられます。このうちのひとつが、2013年からダンススタジオを運営する『AAPA』の活動拠点です。

スケルトンの波板が使われている入り口を見ると、
上に下にと動く人影のようなものが見えます。

通常、屋根に使われることが多い波板。設計・施工を担当した『AIDAHO』の長沼さんと澤田さんのアイディア。

扉を開くと、生徒とペアを組んで、からだの動かし方をアドバイスする講師の上本竜平さんと永井美里さん。伸びやかに指先を上に向けたかと思うと、今度は床を滑るように上半身を投げ出すなど、予測ができない動きについ見入ってしまいます。

振り付けはなく、即興で踊る。日常生活ではやらない動きを通じて、自分のからだがどう動いていくか確かめる。

 

―日本ではまだ認知度が低い
コンテンポラリーダンス―

 

AAPAが専門にしているダンスは、コンテンポラリーダンスと呼ばれるジャンルで、スタジオのクラスは“リリース・テクニック”と“コンタクト・インプロビゼーション”という2種類のテクニックを用いたもの。

からだの力を抜くことで生まれる動きを自由に組み合わせ、他者と踊ることで生まれる動きを取り入れていく、より即興性の強いダンス。音楽に合わせて決まった振り付けで踊るヒップホップやジャズダンスに比べると、敷居が高い印象を持つ人は多いのでは? 永井美里さんはうなづきながらもこう話してくれました。

「私はダンス学部のあるイギリスの大学に留学し、このダンスに出会いました。自分のからだにどんな動きがあるのか自分と対話して丁寧に探り直していきます。さらに人と踊ると、お互いの動きや呼吸で自分の動きも変化します。これを積み重ねて創り出していくおもしろさがあるんです。最初は振り付けがない不安を感じるかもしれませんが、からだの感覚が深まることで自然と動いていけるようになるので、実は誰でも始められるダンスなんですよ」

 

―遠く思い描いたダンススタジオを持つ夢。
“いつかなら、今やろう!”という言葉が後押しに―

 

イギリスでダンスを学んでいた永井さんは、海外では教育や文化、医療にいたるまでさまざまな場面にダンスが取り入れらていることに感銘を受け、日本にもっと広めたいと感じて2006年に帰国。しかし、日本では一般的ではないイメージのダンスをどう広めていけばよいか悩んでいたそう。そんな時に出会ったのが、当時は他の複数のメンバーで構成されていた『AAPA』の代表として活動し、後に夫となる上本竜平さん。上本さんはもともと演劇を通じてダンスに出会ったと言います。

「大学時代に始めた演劇サークルの先輩を通じで、コンテンポラリーダンスに出会いました。『AAPA』では日常の空間でパフォーマンスをすることをテーマに活動していて、外部からダンサーを招いてさまざまな場所で公演をしていました。そのダンサーのひとりが永井でした。そして2011年の震災を機に、2人で拠点を持ってダンスを教えることもしたいと語り合うようになりました。自分はきちんとダンスを学んだ経験はないけれど、永井は専門的にイギリスの大学で学んだ経験があったので、互いの違いを通じて刺激を受けながら一緒にできる気がしたんです」(上本さん)。

永井さん自身、いつか自分のスタジオを持ちたいという夢はあったものの、まだ先のこととして捉えていたそう。「竜平に、“いつかなら、今やろう!”と背中を押され、ダンススタジオを作ることが現実味を帯びていきました」(永井さん)。

 

―物件探しを進める中で確信した
千住の団地内に拠点を置く魅力―


まず始めたのが物件探し。
永井さんは横浜、上本さんは八王子出身だったため、最初は東京の西側のエリアを探していたと言います。しかし、いくつか物件を見てまわった末、東京の東の果て、北千住の団地の空きテナントにたどり着きました。

現在のスタジオのリノベ前の空室だった時の様子。

「空間が壁や柱で仕切られていないことが条件。団地の中で店舗として使われていたこの物件が、小さいけれど条件にかなっていて気に入ったんです。また、東京の西側の方がダンススタジオも多い印象で、まだ開拓されていない東側エリアであることにも魅力を感じるようになりました」(上本さん)。

「私は団地育ちなのもあり、人の生活がすぐそばにある環境というのも魅力でした。私たちのダンスは、手の届かない難しいものではなく、日常のからだとダンスが混ざり合って成り立つものです。団地には商店もあり、住む人も行き交い、スタジオの中にいても外と遮断されず、その人たちの声や足音、近くを走る電車の音もときおり聞こえてきて、日常と重なり混ざり合う感覚が感じられ、ダンスにも繋がる気がしたのです」(永井さん)。

 

―団地内の店舗をリノベした時のこだわりは“日常感”―

 

リノベする際にこだわったのが、入り口と室内の色。入り口は扉だけでなく壁全体がスケルトンの波板で、外からもなんとなく中の様子がわかります。この波板は設計・施工の担当者からの提案によるそう。

「透明にしてしまうと、スタジオでレッスンを受ける生徒さんが人目が気になって集中できません。半透明の波板を使うことで、シルエットが曖昧になって生徒さんの緊張感も解消されますし、外を通る人も私たちの様子をなんとなくうかがい知ることができます。この団地は中庭にベンチや花壇があったり、共同のトイレがあったりとわりと人の動きがあるので、そんな日常の景色に溶け込んでいく感じが気に入っています」(上本さん)。

スタジオの壁や天井を真っ白に塗り直しています。

「通常、舞台用のリハーサルスタジオは黒が主流。でも、自分たちがやりたいダンスは、日常の中のダンス。外と繋がっている方がよいので、自然光を感じやすい白にしました。また、白の方が光の反射で広く見える利点もあります。エアコンは設置してなくて、夏は入口のドアを開けてクラスをすることもあります。ちなみに、床は断熱材を入れています」(上本さん)。

 

―北千住に拠点を移して見えてきた
ダンスの新しい可能性―

 

「生徒さんの中には小学校にあがる前の子どももいれば、60代の方までいます。子どもの中には“こんなのダンスじゃない!”と言う子も。お友達と参加するうちに、だんだん楽しくなる場合もあるし、いろいろです。“ダンスはこういうもの”と固定観念ができる前に、このダンスに触れて自分たちで創る楽しさを感じてもらえたらうれしいですね。

大人の生徒さんからは、“昔はもっと動けたのに…”という声を聞くこともありますが、さまざまな方とスタジオでクラスを行うなかで、肉体的にも精神的にもその年齢に応じた魅力がダンスとしてあらわれてくるのを見てきました。今のからだを素直に受け止めて丁寧に向き合っていくと、ダンスも日常生活も楽しくなると思います。また、違う世代同士が集まって踊ることで生まれるものもあります。“ダンスは感情やメッセージなど、何かを表現するもの”という考えもありますが、私がこのダンスを魅力に感じたのは、いま起きていることに夢中になって動いている間に、自然とダンスが生まれてくるのを体験したからでした。ダンスは恥ずかしいと感じている方も、あまり身構えずに、足を踏み入れてみてほしいですね」(永井さん)。

2015年11月、『千住酒合戦200』のイベントの一部として行われた『キネセンジュ』が行った『団地のオータムナイト』。 撮影:加藤有紀

 

現在、AAPAとしてスタジオで教えるだけでなく、国内や海外のさまざまな地域でワークショップを⾏ったり、街のイベントに参加するなど、活動の場は広がっています。不定期で行うイベントの中には、北千住の街づくりに携わる団体とのコラボレーションも多くあります。千住のお寺や古民家などさまざまな場所でちょっと変わった映画体験を企画する『キネセンジュ』とのコラボ企画では、AAPAのクラスでも行う“からだほぐし”をした後、スタジオの真っ白な壁に映画を映し、皆で鑑賞。

「自分たちの活動を知ってもらえるきっかけにもなりましたね。他にも、千住の古い建物を守り利活用する『千住いえまち』とは、街歩きとパフォーマンスを組み合わせた企画を一緒に行ったりしました。

この団地の物件を知るまでは、北千住はどこかに行くための通過点でしかなく、知り合いも全くいない状態でした。街を盛り上げようと活動している人がとても多くて、1人と繋がると数珠つながりにいろいろな人と交流が生まれて刺激になっています。何かイベントの企画が立ち上がった時に声をかけてもらったり、こちらから提案する機会があることは、とてもうれしいですね」(上本さん)。

団地の一階でこじんまりとはじめた活動が徐々に広がりを見せています。2人の活動がきっかけで、日本にもダンスが日常に自然に溶け込んでくる日が来るのかもしれません。

気さくな人柄も魅力。

【場所】
AAPA 日の出町団地スタジオ
日ノ出町27 日の出町団地1号棟103 

クラスは不定期&要予約のため、
スタジオWEBサイトをご確認ください。

HP:http://aapa.jp/
facebook:https://www.facebook.com/AAPA.jp/

取材  :西谷友里加
イラスト:渡邉由貴恵

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