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空き家からはじまる新しいまちづくり

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大和湯 女将 森山悦子さん ご主人 森山泰好さん

温泉宿のようにくつろげる

3代続く銭湯

近年では、住みたい街ランキングにも登場するようになった千住。

交通の便がよく、駅ビルもあり、グルメな人が集う飲食店も続々とオープンし、

一方で昔ながらの商店街や路地、銭湯、古民家など、昭和っぽさも色濃く残っています。

 

そんな新旧が交差する千住のまちの中でも、

東京電機大学の誘致で大きく変わりつつある北千住駅の東口エリアを中心に、

そこで働く人、暮らす人を紹介していきます。

 

今回は、旅館のような雰囲気が人気の銭湯『大和湯』の女将 森山悦子さん、ご主人の森山

泰好さんを紹介します。

 

―外から見ると昔ながらの銭湯、中に入ると旅館のよう―

 

北千住駅東口に直結する学園通り商店街を抜け、昭和の風情が漂う柳原商店街の路地を進むと、稲荷寿司の名店『稲荷寿し 松むら』の向かいに、立派な宮造りの銭湯『大和湯』があります。2001年に3代目が内装を全面リニューアルし、中に入ると温泉旅館のような雰囲気に和みます。

大和湯は第二次世界大戦の少し前の1932年創業とされています。3代目女将の森山悦子さんは、先代、夫の泰好さんと3人で交代してフロントに立ち、お客さんを見守ります。

老舗の銭湯に多い、浴室の大きなペンキ絵やタイル絵が現在の大和湯にはありません。浴場は木と黒いタイルを組み合わせたシックなつくり。リノベーションする際、立派な梁に大工も驚いたといいます。先々代が「100年はもつよ」と言っていた建物をいかし、中は現代風に思い切って変えました。オレンジ色の照明も温かみがあって心身ともに疲れが癒されるよう。

 

内風呂は、ジェットバスなど、3種類が楽しめます。お湯の温度はぬるめで、東京下町の熱すぎる温度がきつい人にはちょうどよい湯加減。

 

外の風が心地よい露天風呂。日替わりの薬湯も楽しめる。

 

―銭湯の改装や、まちの再開発で変化した客層―

銭湯の雰囲気が変わると、客層も変わったそう。

「昔の良さを気に入っていたお客さんの中には、リニューアルして離れてしまう人もいました。でも、口コミなどで知って新しく通ってくれるお客さんも年々増えてうれしいです。路地が多い場所なのでわかりにくく、たどりつけない人もけっこう多いんですけどね(苦笑)」(泰好さん)。

新しいお客さんの中には、学生の姿も多いという。

「東口に東京電機大学が移転してからは、学生さんが増えましたね。夜間学生の子も講義が終わるとグループで入りに来てくれますね。コロナ禍で海外からの旅行客は見かけなくなってしまったけれど、近所の民泊『ナイスホテル』に宿泊しているのか外国人観光客のかたも入りに来てくれていました」(泰好さん)。

リノベーション前とは間取りも変わっています。フロントからすぐ男湯と女湯に分かれるのではなく、テレビのある共有スペースがあります。

「家族で銭湯を利用してくださるお客さんも多いのですが、たいてい男性が早く出てきてしまって、待つ場所に困るんですよね。それで、脱衣所は少し狭くなってしまったけれど、男女共有で使える休憩スペースを設けました」(泰好さん)。

休憩室にはテレビもあり、のんびりくつろげる。

 

―思いがけずに女性が代々継ぐことに―

男性が継ぐことの多い銭湯で、大和湯は女性が切り盛りしてきた珍しい銭湯です。

「大和湯は祖母と母から受け継ぎ、私が3代目です。初代、先代ともに夫を若くして亡くしてしまい、やむを得ず…。銭湯で働く祖母と母の姿を見てきたので、小さい頃からなんとなく大和湯は私が継ぐものだと思っていました」(悦子さん)

 

悦子さんは生まれも育ちもこの銭湯。まちの変化を肌で感じてきました。

「駅前はずいぶん変わりましたが、柳原は昔からのお店がいくつもあって、顔見知りばかり。ここに来るまでに路地を通り抜けますが、子どもの頃から夜歩いても怖いと思ったことは一度もありません。

今、後継ぎがいないなど、いろいろな事情で商店街が寂しくなっているのが残念です。昔のように、小さなお店がたくさんあって、たくさんのお客さんが行き交うような賑やかさを取り戻してくれたらいいですね」(悦子さん)。

 

―サラリーマンから婿入りして銭湯の道へ―

悦子さんが銭湯を継ぐにあたり、夫の泰好さんはサラリーマンから転身し、銭湯の道へ。

埼玉県出身の泰好さんはサラリーマン時代に風呂のない寮で生活したこともあり、毎週土曜日に入る銭湯が楽しみだったそう。とはいえ、自分が将来、銭湯で働くとは思ってもみなかったでしょう。でも、この仕事に就くことに抵抗はなかったそうです。妻の悦子さんに教えてもらいながら慣れていきました。

「最初は段取りが良くないから、開店までに準備が間に合わなくて…。浴槽が大きいから、適温に上がるまでに開店時間がきてしまうんです。“お湯がぬるい!”って、昔ながらのいかにも江戸っ子風のお客さんにどやされながらやっていました(苦笑)」(泰好さん)。

そんな生活を続けて約30年。今ではすっかり仕事も板につき、力仕事も多い銭湯の仕事は、泰好さんの力なくしては回せません。重労働でも続けられたのは、お客さんが喜んでくれるのがうれしかったから。顔なじみも増え、いつも来るお客さんが来ないと心配になり、高齢者も多いことから安全に過ごせるよう見守らなければという責任感も生まれたと言います。コロナ禍でお客さんは減ったものの、徐々に元に戻ってきているとか。

「土手で野球などのスポーツをする子供たちも多いから、土日は小学生が入りに来ることも多いですね。お年寄りだけでなく、若い人たちの日常も銭湯があるってことがうれしいです。示し合わせたわけではないと思うけれど、千住の銭湯は定休日がバラバラなんです。お客さんを見ていると、決まった銭湯に通う人が多い気がしますが、定休日に普段と違う銭湯に行ってみるのもおもしろいと思いますよ」(泰好さん)。

 

―自然災害を考えて、煙突を工事―

大和湯では最近、煙突が変わったことに気づいた人はいますか? 大和湯の煙突は荒川土手からもよく見えますが、以前は煙突に「大和湯」と書かれていたのが、今は文字がなくなっています。23mあった煙突を2020年に短くし、今は18mだそう。

かつての大和湯の煙突。ちょっと短くなった今も荒川土手からよく見え、土手でスポーツを楽しむ人の目印にもなっている。

「薪でお湯を沸かすのが当たり前だった時代、銭湯の煙突は23mと法律で決まっていました。でも、うちの銭湯は今はガスで沸かしているので、そこまで長い煙突にする必要はないんです。大型台風で他の銭湯の煙突が折れた事故もありましたし、地震対策としても短くすることにしました。台風とかコロナとか、予期せぬことが起こり、人間の力でどうしようもできないこともありますが、できる範囲で対応していこうと思います」(泰好さん)。

時代が変わっても、店やまちを見守るやさしい眼差しは変わらずそこにあります。不安定な世の中であっても、これからもホッとできるオアシスであり続けてほしいです。

<お店データ>

大和湯

足立区柳原2-43-1

【営業時間】15:30~23:30(最終入場23:00)

日曜のみ14:00~23:30(最終入場23:00)

定休日  水曜日 【定休日】水曜

※この記事は『町雑誌千住』Last号の取材記事をもとに、2021年に追加取材しています。※2021年10月現在、新型コロナウイルス感染拡大を受け、営業状況は上記の通りではありません。

イラスト:秋山弥生

取材・原稿:西谷友里加

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