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空き家からはじまる新しいまちづくり

PEOPLE

『柳原音楽祭』『ゑびす屋』 店主・小倉敏政さん

サンダル履きで行ける

下町のクラシックコンサート

近年では、住みたい街ランキングにも登場するようになった千住。交通の便がよく、駅ビルもあり、グルメな人が集う飲食店も続々とオープンし、
一方で昔ながらの商店街や路地、銭湯、古民家など、昭和っぽさも色濃く残っています。
そんな新旧が交差する千住のまちの中でも、東京電機大学の誘致で大きく変わりつつある北千住駅の東口エリアを中心に、そこで働く人、暮らす人を紹介していきます。

 

今回は、“サンダル履きで行けるクラシックコンサート”の発起人で、本業は鰻店『ゑびす屋』の店主を務める小倉敏政さんを紹介します。

 

北千住駅東口からまっすぐの千住旭町商店街。そこから路地を抜けた先にある商店街『柳原商栄会』。この商店街に鰻店『ゑびす屋』があり、窓越しに鰻を焼く店主の小倉敏政さん。夜の営業前の休憩時間だが、店内からは賑やかな声が。親しい人たちが店を訪れ、小倉さん夫妻とお喋りを楽しんでいます。

「ビールでもひと口どうですか? 飲んだ方が喋りやすいんじゃない?」と小倉さんの幼馴染。「なーに言ってるんだ! 彼女は取材に来てるんだから!」と小倉敏政さん。お店の奥で様子を見ていた妻の修子さんがニコニコ笑っています。

 

高校の同級生というおしどり夫婦の小倉敏政さんと修子さん。共に柳原音楽祭の発起人。

小倉敏政さんは、生まれも育ちもこの千住のまちで、創業70年以上のうなぎ店を修子さんと二人三脚で切り盛りしています。

下町の名物、鰻。商店街を通ると、鰻の香ばしい香りに誘われる。

―人との交流の場を作るのが好き

 

ここは本来は鰻が名物の居酒屋ですが、営業時間外も人々が集っています。例えば、月に1回お店で開催する『ゑびす会』。最初は皆でお茶会をし、後半は皆で歌います。この会は、もともとは敏政さんの今は亡きお母様が、地域の人と交流できるようにと始めたそう。

「おふくろが亡くなってやめようかと思ったんだけど、皆から続けてほしいって言われてさ。お店の休憩時間にこうして世間話をしたり、わいわいやってるのよ。商売するより面白いしね。なんでも、人のためっていうより自分が面白くてやっているんだ」。

敏政さんは『柳原マイクロFM放送』の不定期放送など、地域との交流をいくつも行っています。その中でも歴史が長いのは、今年は10月20日の開催で27回目を迎える『柳原音楽祭』。この音楽祭は、サンダル履きで行けるクラシックコンサートというコンセプトで、柳原商栄会から近い千寿桜堤中学校の体育館で行われています。始まったきっかけは敏政さんの呼びかけだったそう。今は柳原商栄会が一丸となって、盛り立てています。

体育館を使って開催される柳原音楽祭。客席と目線の高さがほぼ同じという迫力も評判。

―体育館で異例のクラシックコンサートを開催

 

「高校生の時に生徒会長で、文化祭の前夜祭で『遠き山に日は落ちて』という歌を歌っていたの。妙にいい歌だけど何だ? と思って調べたら、ドヴォルザーク(ドヴォルジャーク)が作曲したクラシック音楽の『交響曲第9番「新世界より」第2楽章』がおおもとの作品だって知って。この曲を皆で生のオーケストラで聴いてみたいと思って、商店街の人たちに呼びかけ、ボランティアで手伝ってくれる人を募り、1993年に『柳原音楽祭』を開いたんだ」。

 

第1回目の会場は、柳原小学校の体育館。その後廃校になり、隣の千寿常東小学校に場所を移したものの、第13回からは柳原小学校の跡地である千寿桜堤中学校に定着しています。今でこそ、コンサートホール以外でオーケストラの演奏を聴けることは増えましたが、当時は今ほどではなかったと言います。

 

「初回の出演は足立シティオーケストラ。サンダル履きのまま誰でも楽しめる、敷居の低いものにしたくてね。普通は舞台の上の高いところで演奏するけど、この音楽祭では客席と同じ高さで気軽に聴けたらいいなって」。

―家族、そして地域一丸となった手作り音楽祭の成功

 

体育館で開催される異例のコンサートに、集客の心配もあったそう。そこで、コンサートの宣伝を兼ねて、商店街で風船や綿あめをチラシと一緒に配ったり、地域の新聞に掲載してもらうなどの広報活動に奔走。会場で使うパイプ椅子を調達しに、商店街にある工務店のトラックで隣町の小学校へ借りに行ったり、それは大忙しだったといいます。そして迎えた当日―。体育館には400~500人の観客が集まりました。

 

「朝、オーケストラの皆さんが楽器を携え、柳原の商店街へ続々とやって来る姿を見た時は嬉しかったなあ。今まで見たことのない光景で、いよいよ始まるんだと胸が震えたのを覚えています」。

 

演奏の間には出演者が楽器や曲の解説をするなど、クラシック初心者でも楽しめる構成。また、出演者との距離の近さに驚くお客さんも。初回が成功すると、第2回も続けたくなるもの。小倉さん夫妻を中心に、毎年10月に音楽祭は開催されていきました。2015年には、柳原音楽祭が『東京都商店街グランプリ・優秀賞』を受賞。ですが、決して順風満帆ではなかったと言います。

 

「オーケストラの皆さんには楽器の運搬費ぐらいしか出せないし、出演者を探すのも大変。今までに早稲田大学や東京藝術大学などさまざまな大学、足立など街のオーケストラなどに来てもらっています。その中でも、特にお世話になっているのが指揮者の高関健さん」。

第3回からたびたび指揮を務めている高関健さんは、東京藝術大学音楽学部指揮科教授であり、藝大フィルハーモニア管弦楽団首席指揮者でもあります。高関さんも千住出身で、当時、小倉さんの息子さんが通う幼稚園のPTAで知り合ったそう。

 

「クラシック音楽に縁のない人にも聴いてもらいたいという気持ちに高関さんに共感していただけ、それゆえにこんなに長い期間続けられました。自分で聴きたくて始めたんだけど、開催する側になってみると、無事に事故なく終わるか気がかりで楽しんでいる場合じゃないね(苦笑)。でも、この音楽祭がきっかけで、他のクラシックコンサートにも行くようになったという人もいて、そういう話を聞くと嬉しいよね。今は社会人だけど、息子もこの音楽祭を3歳の時から見ていて、小学生の頃から手伝ってもらってます。会場で売るジュースの売り子をしてもらったり、パソコンが使えるようになるとチラシやホームページを作ってもらったり…。大学生頃になると、区役所などへ手続きを代わりにしてくれたり、音楽祭を手伝ってくださるボランティアをまとめたりと、家族一丸でやってきました」。

 

たくさんの人の手で作られる柳原音楽祭。この隠れた名物が、出演者にふるまわれているマツタケご飯。開催に力を尽くしてくれたお礼として、『柳原まちづくり研究会』の奥様たちが作るのが恒例になっていると妻の修子さん。

「うちの店の厨房で作ってもらうんですが、それが楽しみって人も多くて。“あのマツタケご飯はおいしいよね”って、他のホールの楽屋などでお話してくださっているようです。そういったことを聞くと、なんだか誇らしくて、大変だけどやっていて良かったと思います」。

 

小倉さんご夫妻の声かけをきっかけに、27年も続いている商店街の音楽祭。高校の同級生だというご夫婦が手を携え、商店街の人、街の人が集まり、オーケストラの演奏のようなうねりは時を経ても勢いは衰えず、他の地域の商店街からも羨望の眼差しを向けられています。

 

<ショップデータ>

鰻&天麩羅 ゑびす屋

足立区柳原2-20-13 ☎03・3888・3577

【営業時間】12:00~13:30 17:00~21:00 【定休日】月曜・木曜

【第27回 柳原音楽祭開催情報】

開催日時:10月20日(日) 13:00開場 14:00開演

会場:足立区立千寿常東小学校 体育館(足立区千住旭町10-31

チケット:柳原商栄会の店を利用したかたの中で、希望者に無料招待券を配布。

問い合わせ:☎03・3888・3577(ゑびす屋)

 

イラスト:秋山弥生

取材・原稿:西谷友里加

 

 

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