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空き家からはじまる新しいまちづくり

PEOPLE

『東北カフェ&ダイニング POSSO』『千寿てまり工房』     代表 植村昭雄さん&館長 佐藤裕佳さん

建物、食、工芸品…

廃れつつある文化を繋ぐコミュニティ

 

近年では、住みたい街ランキングにも登場するようになった千住。交通の便がよく、駅ビルもあり、グルメな人が集う飲食店も続々とオープンし、
一方で昔ながらの商店街や路地、銭湯、古民家など、昭和っぽさも色濃く残っています。
そんな新旧が交差する千住のまちの中でも、東京電機大学の誘致で大きく変わりつつある北千住駅の東口エリアを中心に、そこで働く人、暮らす人を紹介していきます。

 

今回は、12年も空き家になっていた建物を文化の発信地として再生している『東北カフェ&ダイニング POSSO(ポッソ)』『千寿てまり工房』の代表 植村昭雄さん&館長 佐藤裕佳さんを紹介します。

北千住駅の大踏切の側にある千住東町商店会には、ラーメン店、和食居酒屋など、メディアでも取り上げられる人気の飲食店が軒を連ねる中、ガラス窓が開放的なカフェが1軒。こちらが『東北カフェ&ダイニングPOSSO』。2019年2月にオープンしたばかりで、ラオスのコーヒー、東北の食材を使ったジェラートやドリンク、ランチを楽しめます。その裏手には、カフェの中を通り抜けた先にある『千寿てまり工房』が2018年9月から静かに時を重ねていました。

 

3階建ての建物の1階がカフェ。カフェと一緒にリノベーションした『千寿てまり工房』はこの建物の中を抜け、裏手にある一軒家だ。

 

栄える街と裏腹に、閑散とする昼間の商店街を盛り立てたい

 

代表の植村昭雄さんが初めて北千住に住んだのは、今から25年ほど前。その時は今とはかなり違う印象を持ったそう。

「初めて駅の東口に降りた夜、1軒の居酒屋の灯りがぽつんとあるだけで、辺りは真っ暗。それまで新宿方面に住んでいたので、都落ちしたと思いました(笑)。当時は悪い事件のニュースで取り上げられるぐらいだったので、街歩き的な番組にも取り上げられるようになった今は、だいぶ印象が変わりましたね。2000年に結婚してから毎晩のように妻と千住で飲み歩き、お店に集う人と話すようになって、この街をどんどん好きになっていきました」(植村さん)。

 

北千住駅の大踏切を越えた千住東町のあたりは、駅から近いのに静かで、オリジナリティあふれる飲食店を開きたい人に人気のエリア。千住東町商店会は、15年ほど前までは土日の昼間には歩行者天国になるほどの賑わいだったと、植村さん。しかし、食材や日用品を売る個人商店が続々と店を閉め、居住用マンションや空き家も増えた印象です。

「昼間も賑やかな商店街を、チェーン店の力を借りずに取り戻したいです。若手のクリエーターなど、千住にはユニークな活動をしている人が増えています。文化を発信して、地域に根差したコミュニティを広げられたらと、表の店はカフェ、裏では日本の手毬文化を広める工房や映像の上映会をするスペースを造りました」(植村さん)

 

代表の植村昭雄さん。青森出身で、東北の文化も大切にしている。千住歴は25年ほど。

空き家歴12年の物件をリノベーション

 

カフェの奥行ある細長い店内を抜け、いったん建物を出ると、目の前に一軒家があります。こちらの1階にあるのが『千寿てまり工房』。

カフェの店内は奥に長い造り。奥の扉を抜けると、工房の建物が目の前にある。

『千寿てまり工房』の外観。玄関の扉は当時のまま。

『千寿てまり工房』の室内。イベントも行えるよう、バーカウンターやスクリーンもある。

 

「東日本大震災をきっかけに、地域コミュニティの大切さを実感し、『足立経済新聞』やインターネット放送局『Cwave』などを立ち上げました。手がけている事業のひとつが、自分の出身でもある東北の手毬文化を伝えるというもの。事務所を手毬の倉庫としても使っていましたが、手狭になってしまって…。どこかシンボリックな場所も必要だと思っていました」。

工房の場所を探すため、地元の不動産屋に声をかけていた植村さん。文具店として使われていた表の店舗と、母屋兼倉庫として使われていた店舗の裏にある一軒家の両方を使ってみないかと提案がありました。ただし、建物内に残されていた大量の荷物を片付けをするという条件付き。格安の賃料だったため、他の店舗物件を借りるよりは条件が良いだろうと、2つの物件を借りる決心をしたそう。まずは裏手の一軒家を『千寿てまり工房』として2018年9月にオープンさせました。

 

当時の文具店を描いたイラスト。建物内から見つかった。

 

「ご店主は1人暮らしだったそうですが、急病でそのまま店を閉めました。遠い親戚しかおらず、管理する人もいないまま12年もの間空き家だったようです。昭和30年代に建てられた古いものでしたし、長年人の出入りがなく、だいぶ傷みが進んでいました」。

 

やっかいな物件ながら、リノベーションして借りようと思ったのは、場所の良さと、片付けと改修の手間を惜しまなければコストをかなり抑えられることだったと言います。植村さんはボランティアを募り、のべ100名もの手で店舗と裏の母屋の両方を一部解体し、裏の工房は地元の工務店さんの力によって生まれ変わりました。

 

マスクに軍手の重装備で不要な物を片付け、床や壁を補修する日は、何日も続いた。

「まず、不要な物の処分から始めましたが、これが想像以上の重労働。母屋は道路に面しておらず、建物に囲まれています。風通しが非常に悪くて湿気がこもりやすい上、雑草は伸び放題。床はところどころ腐っていました。ちゃぶ台やタンスなどはそのまま使うことにしましたが、生活していたままの状態なので不要な物もかなり多く、2トントラックで7、8回は廃棄処分で往復しました」。

 

床を張り替え、壁もクッション材を入れて補修。

 

時を越えて繋がった手毬

そんな時に発見されたのが、納戸にしまってあった箱。手毬の文化を広めようという植村さんに衝撃を与えることになりました。開けてみると、日記と共に手のひらサイズの手毬が出てきたのです!

箱に大切にしまわれていたのは、古い日記と美しい手毬。第二次世界大戦の頃のものと思われる。

「ご店主のものなのか、遺書の意味合いを込めて海軍に入隊して書いた日記などが収められていました。私の親父が軍に入隊した年と重なり、不思議な縁を感じました。記録の中にはラブレターもあって、一緒にしてあった手毬は、彼女からもらったものかもしれません。手毬は日本各地で伝わってきた文化ですが、大切な人への贈り物としての意味合いもありましたから。きっと、激動の時代に我々には計り知れないいろいろなことがあったのでしょうね。手毬文化を千住から日本各地に発信したいという想いでやっていますが、ここで手毬が出てきたことで、背中を押されたような気がしました」。

 

工房の天井からはカラフルな手毬が無数に吊され、ほの暗い天井に浮かぶようで幻想的。

 

古民家で日々過ごすということ

建物のリノベーションを進める中で、そのほか厄介だったのが壁。梁はしっかりしていて今の建物にも残していますが、なぜか壁はトタン1枚という造りだったそう。

「近隣の方の声が丸聞こえなんで、ビックリしました。薄い壁なので、冬はかなり寒く、夏は灼熱地獄。防音になるクッション材を入れ、ベニヤ板を貼って壁を補強しました。それでも、一般の住宅より防音性に劣るので、今でも映像イベントを開催する時などは気を付けています。古民家というと憧れの眼差しを向けられることが多いですが、実際は我慢しなくてはならないこともたくさんあります。最新の水回りや空調に慣れた生活を送っていればストレスになるし、補修しながら生活するのはお金もかかります。それでも長い年月を経てにじみ出す味わいは新しい建物には決して出せないし、継承されてきた文化を残したいと思う。その2つの狭間で模索しています」。

味わい深い棚やちゃぶ台は、工房でそのまま使っている。

手毬の文化を発信する

現在は、工房で手毬のデザインや仕上げの工程を行うほか、月1回のペースで手毬づくりのワークショップを行っています。この手毬も、カフェでこだわる東北産の食材と同様に、東北の産業を盛り立てるために始まりました。この工房で館長を務めるのが、秋田出身の佐藤裕佳さん。大学の卒業式で、出身地の伝統工芸だった手毬をモチーフにしたかんざしを身に着けたのがきっかけだったそう。手毬は大切な人に贈ることから始まり、やがて高度経済成長期に国内旅行が盛んになると日本各地でおみやげの定番になり、房をつけるなど地域独自のデザインに差別化されていった背景があると、佐藤さんは語ります。

今はお土産としての需要は減り、地域で高齢の方が作ってひっそりと受け継がれている手毬。伝統工芸品とすると定義が固定されるので、デザインも自分たちが考える“創作てまり”として、手毬文化を伝えるところに到達しました。

「昔ながらの手毬は、そのまま飾っても今のライフスタイルには馴染みません。そこで、手のひらサイズにして、房をとり、アクセサリーとして流通させれば、もっと手毬に興味を持つ若い人が増えるのではと考えました」(佐藤さん)。

「文化も広まれば、少なからず経済の循環にもなります。10年経っても千住に残っていてほしいし、やがて全国の手毬文化を千住を媒介して発信できればうれしいです」(植村さん)。

 

空き家の納戸に閉じ込められ、やがて忘れ去られた小さな手毬。時を経て、千住、日本各地へと、さまざまな文化を繋ぐ不思議なパワーを秘めていました。

 

『千寿てまり工房』館長の佐藤裕佳さん。カフェスタッフとしてホールに立つことも。

東北に限らず、全国の手毬文化を発信。沖縄の高校生と考えて完成した手毬の髪飾りは、沖縄の言葉、景色をモチーフにして那覇空港でも販売中。

 

 

 

 

<ショップデータ>

東北カフェ&ダイニング POSSO

千寿てまり工房

足立区千住東2-5-14 03・5284・8232

【カフェの営業時間】12:00~18:00(L.O.17:30)

【カフェの定休日】月曜

【千寿てまり工房の営業日】月に1回程度ワークショップを開催

 

 

イラスト:秋山弥生

取材・原稿:西谷友里加

 

 

 

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