SENJU PUBLIC NETWORK EAST

空き家からはじまる新しいまちづくり

ARCHIVE

『千住ガレージ』『大工店 賽』代表 佐野智啓さん

木でつくる日本の伝統建築の

技術を守る大工

 

近年では、住みたい街ランキングにも登場するようになった千住。

交通の便がよく、駅ビルもあり、グルメな人が集う飲食店も続々とオープンし、

一方で昔ながらの商店街や路地、銭湯、古民家など、昭和っぽさも色濃く残っています。

 

そんな新旧が交差する千住のまちの中でも、

東京電機大学の誘致で大きく変わりつつある北千住駅の東口エリアを中心に、

そこで働く人、暮らす人を紹介していきます。

 

今回は、千住の路地裏にイベントスペース『千住ガレージ』をオープンさせ、普段は『大工店 賽』で無垢材の住宅づくりや、千住のまちなみを守る活動に力を注ぐ、大工の佐野智啓さんを紹介します。

 

―古い民家をリノベした イベントスペース―

北千住駅東口の学園通り商店街にある杉本青果店の脇にのびる路地をまっすぐ歩くと、住宅街の中に1軒、大きなガラス扉の一戸建てが目に留まります。この建物は築50年ほどの小さな木造住宅で、1階は倉庫として長らく使われていたそう。大工の佐野智啓さんはこちらの1階を借り、イベントスペースとして活用できるよう2019年にリノベーション。ロフトに登るための階段や家具を造って、遊び心のある空間に仕上げました。2階に入居するデザイン事務所も、佐野さんが床を張り替え、仲間たちと壁を塗ってリノベーションしました。

 

1階は『千住ガレージ』として佐野智啓さん(写真右)が、2階はデザイン事務所『ろじゆらデザイン』としてデザイナーの猪又章夫さん(写真左)が借りている。

―昔ながらのまちなみ、建物、建具を救出―

去る2019年11月下旬、こちらのガレージと2階のろじゆらデザインで『手しごとGARAGE 建具市』が開催されました。2階では千住にアトリエを構えて無垢の家具や小物を作る『家具屋イヱノbyイシワタ民具製作所』の展示会、1階では佐野さんが集めた建具の販売、建具の取り付けやリノベーションの相談会が行われました。同じく千住にアトリエを構えて綾織物の生地と革を組み合わせた鞄を作製する『渡邊鞄』の商品も棚に並びました。

『手しごとGARAGE 建具市』にて、1階では建具と鞄を販売。写真奥に座るのは『渡邊鞄』の渡邊憲一さん。佐野さんがつくった棚は、ロフトに登るための階段でもあり、収納棚でもある。

イベントでは普段デザイン事務所として使われている2階も開放し、『家具屋イヱノ byイシワタ民具製作所』の展示会も開催。写真左手前は家具職人の石渡信之さん。

佐野さんは区内の舎人公園などに近いエリアに『大工店 賽(さい)』を構え、大工として木造住宅の施工に携わっています。その傍ら、千住のまちなみや古い建物を守る活動をする団体『千住いえまち』のメンバーとして、千住と深くかかわっています。昔ながらの住居や蔵、銭湯などが、相続や建物の老朽化などで年々取り壊されています。その現状を広く発信し、共感の声を集め、解決策を持つ人を繋ぐきっかけづくりをしているのです。佐野さんは古い建物の調査をして記録に残したり、まち歩きなどのイベントに携わったりしています。解体されてしまう古い建物があると、建具を譲り受けて保管してきました。味わい深い建具は、現代では再現が難しい貴重なものばかり。

今回のイベントでは、佐野さんが集めてきた建具を販売。佐野さんは大工なので購入後の取り付けも相談でき、多くの人が入れ替わり立ち替わり訪れました。

「家の戸を全て取り換えるのは大変でも、1枚買って部屋のゆるい仕切りにしたり、壁に立てかけてオブジェのようにしたり、手軽な使い道もあるんですよ」(佐野さん、「」内以下同)。

佐野さんが解体された建物から救出した建具の数々。イベントでは、どんな建物に使われていたのか写真や地図とともに紹介。

 

―千住のまちと無垢材の家を守りたい―

 

今では千住に馴染んでいる佐野さんですが、2013年に千住いえまちのメンバーになるまでは千住に立ち寄ることはほとんどなかったと振り返ります。

「高校時代は西新井大師に近いまちに住んでいて、浅草の学校まで自転車で通っていました。千住は自転車で通り過ぎるだけで、特に思い入れはなかったですね。

大工として独立してやっていたある日、足立区の異業種交流会に出席したんです。そこで今は亡き大野順子さんに出会いました。大野さんは千住いえまちの前身ともなる『千住・町・元気・探検隊』の代表で、当時発行されていた千住のタウン誌『町雑誌千住』の編集もしていたかたで、活動に誘われました。千住にわざわざ行くようになったのは、そこからですね」。

 

古いまちなみを守る活動は、佐野さんがこだわる無垢材(丸太から切り出した木材。木材を薄くむいた板を張り合わせた合板とは異なる)を使った家づくりに共通するものがありました。

「昔の木造建築ってすごいんですよ。お寺をイメージするとわかりやすいですが、立派な梁や柱があって、釘を使わずに組み立て、何百年も機能していますよね。昔ながらの工法は、見習うべきことがいっぱい。年月を経ても精油が香っていたり、四季によって変わる湿度を調整したり、形は変わっても死んだわけではないんですね。年月が経つと風合いが変わっていく楽しさもあり、これは今主流になっている建物には見られない魅力です」。

今は建売住宅が多く、大量生産したパーツを組み立てた家がまちを占めています。佐野さん自身も、最初はこうした住宅を施工する会社で修業をしました。修業後、お父さんが経営する工務店に入るも、こちらも同様。

「より多くの仕事を受けようとすると、短期間で一気に仕上げる建売住宅の仕事がメインになります。そうすると、木を刻んで釘を使わずに組んでいく技術を持った大工はますます減ってしまうんです。父の工務店をいずれ継ごうと一緒にやり始めましたが、父が工務店自体を閉めて隠居しちゃったんです。これは想定外(苦笑)。試行錯誤していた頃、無垢の家をつくる工務店と出会ってその魅力を知り、自分のやりたいことが見つかりました。無垢の家は柱や梁がむき出しになるからビシッとつくらなきゃならなくて、それも格好いいんです! 地震にも強いし、この技術は今後も守っていかれたらと思います」。

―気負わず、風まかせに 想いを繋ぐ―

しかし、無垢材の家を建てようとする人はまだ少なく、無垢材の建物に立ち入ったことのない人もいるのが現状。

「木のよさを体感してもらうイベントをここで企画したいと思っています。カンナで木材を削ったり、小さい棚をつくるワークショップをやってみても面白いんじゃないかって。  木に関することに限定しなくても、誰か若手のクリエイターを呼んでミシンで服を作ってみたり、ラジオを作ってみたりするイベントも楽しいだろうな~。点をいっぱい増やしていけば、いずれ線で繋がって、木に興味のある人との縁も繋がっていくと思うんです。千住はほかの地域からも人を呼びやすい地の利があるから、可能性が広がります」。

今回のイベントでお土産として渡されたものは、家具や小物を作る時に出る端材。家具職人の石渡信之さんが用意した 。「好きなものを選んだください」と声をかけると、子どもも大人もお気に入りの形を夢中で選ぶ。こういったことも、無垢材に触れるきっかけになる。

 

佐野さんは千住に残る古い建物の調査を通じて、茶道教室を開く冨澤八重子さん(過去の記事に掲載)と知り合い、お茶のお稽古にも通っています。

「お茶は所作を頭に入れるのが難しくて、頑張って暗記しようとするとかえってダメなんです。その動作が何のためのものなのか、次の動作にどう繋がるか考えることで、すんなりできるようになってきました。木のよさを広めたり、地域と繋がるような活動も、お茶と同じで、気負い過ぎてもうまくいかないんじゃないかな。何事もゆるゆると、風まかせにやっていきたいです」。

そう笑う佐野さんは、どんな環境にも適応してどっしりと構える無垢材の柱のように、強く、しなやかに、縁の下の力持ちで千住のまちを盛り立ててくれるのでしょう。

<データ>

千住ガレージ

千住旭町20-2

☎なし

【営業時間・定休日】

イベントの時のみ開放

 

※詳細は『大工店 賽(佐野建築工房)』https://www.sanokentiku-kobo.com/

加賀2-27−3 ☎03-3890-3629へ問い合わせを

 

イラスト:秋山弥生

取材・原稿:西谷友里加

NEWS TOP