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空き家からはじまる新しいまちづくり

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select gallery & bar “baku” 店長 田代 匠さん

セレクトショップとバーを

融合した新たな文化の発信地

近年では、住みたい街ランキングにも登場するようになった千住。

交通の便がよく、駅ビルもあり、グルメな人が集う飲食店も続々とオープンし、

一方で昔ながらの商店街や路地、銭湯、古民家など、昭和っぽさも色濃く残っています。

 

そんな新旧が交差する千住のまちの中でも、

東京電機大学の誘致で大きく変わりつつある北千住駅の東口エリアを中心に、

そこで働く人、暮らす人を紹介していきます。

 

今回は、セレクトショップ兼バーの『select gallery & bar “baku”』で店長を務める田代 匠さんを紹介します。

 

―北千住らしからぬ 洗練された佇まいが話題に―

北千住駅東口からまっすぐのびる学園通り商店街を進み、突き当りの近くで1本路地に入った場所。夜の帳が下りる頃、白い一戸建ての大きな窓からは温かみのある光が漏れ、路地を照らしています。

室内を覗くと、手前には衣類、奥の壁にはお酒のボトルが並び、カウンター席も見えます。ここは2019年2月にオープンした『select gallery & bar “baku”』。衣類や日用品などを扱うセレクトショップであり、バーでもあります。真っ白で洗練された店構え、そしてセレクトショップという形態に「北千住らしからぬ店ができた」と、オープンまもなく話題に。

 

―“モノと人”、“人と人”を繋ぐ店を目指して―

この店の店長を務める田代 匠さんは、いつも真っ白なシャツに身を包み、にこやかに出迎えてくれます。お店に置く商品は、作り手のこだわりが見える日本のもの。衣類もあれば、器やキッチン雑貨、アート作品、さらにチョコレートや黒豆茶などの食品も販売しています。

田代さんの審美眼に叶った、20以上の作り手による上質な品々が揃う。

「ただ便利、美味しいだけではなく、作られた背景に物語があり、使う人の生活に寄り添うようなモノを選んでいます。“モノと人”、“人と人(お客さんと作り手)”を繋ぐことがこのお店のコンセプトなので、作り手に代わって魅力をお伝えしていきたいです」(田代さん・以下、「」内同じ)。

お店で販売している器のひとつが、田代里見さんの作品。しっとりして温かみのある白磁の器は、バーでも使われています。実はこの作家さんは、店長のお母さん。田代さんのモノに対する愛情は、幼い頃から母親によって培われたものだといいます。

「家での食事ひとつとっても、大量生産の器ではなく、大切に作られた器を日常的に使う生活環境でした。また、陶芸の仕事で僕ら兄弟を育ててくれた母の姿を見ていたので、モノ作りの大変さもわかってきたつもりです」。

 

手前に並べられているのが、仙台(宮城県)に工房を構える田代里見さんの器。

夜のバー営業の前、カウンター席に座る田代さん。お気に入りの万年筆で、その日のお品書きを書きます。バーではおつまみはもちろん、時にはパスタや豚汁なども“バーのごはん”として登場します。日替わりなのもお店のこだわりだと田代さん。お酒も国内のものに限定し、ワインや日本酒など、ユニークなセレクトを楽しみに通う常連客も。

 

おつまみは盛り合わせにもしてもらえる。写真は『本日のおつまみ盛り合わせ』。左からサーモンの塩辛、ドライフルーツ、チーズ、豚レバー&鮭のペースト(バケット付)、国産野菜の茹で盛り。グラスワインは550円(税抜)~。

「バーもセレクトショップの一部として考えていて、買い付けは日本各地に出かけることもあります。旅先では雑貨や食べ物を探して作り手の話を聞かせてもらい、夜は居酒屋でお酒を飲みながら気になる酒蔵を調べ、翌日はその酒蔵を訪ねてみたり…。同じ地域でも春夏秋冬で出会うものも変わります。旅から帰ったら、その地域の食材やお酒をバーでお出ししているので、作り手との一期一会で楽しんでいただければ。お子さんやお年寄り、お酒が苦手な人でも楽しめるよう、国産にこだわったお茶やソフトドリンクもご用意しています」。

 

バーでは調理も接客も行う田代さん。珍しいお酒や食材をきっかけに、会話も広がる。

―老若男女が集う 新しいオアシス―

そもそも、なぜ北千住にお店を構えたのでしょう。東京メトロ日比谷線の終点同士でもある北千住か中目黒か、田代さんは最後まで迷ったといいます。

「最初はセレクトショップが多い中目黒で出店を考えていましたが、数あるお店の中に埋もれて、作家さんの想いが詰まったモノを届けられないのではと思うように。それに対して、北千住はセレクトショップの文化がまだ根付いていないところがチャンスであり、リスクでもありました。交通の便の良さと、飲みの文化があることも合わせ、最終的に出店は北千住に。これまでも北千住へ飲みに行き、人との距離の近さは出身の東北に通じるものがあると親しみも持っていました」。

物件探しは、賑やかな商店街の近くの路地にある一戸建てが条件。ここは駅から徒歩5分と近いのに、商店街から1本裏の静かな住宅街にあり、理想的だったそう。住みながら店を切り盛りし、いずれは住居スペースをギャラリーにする可能性も残したいと、2階建ての戸建てを希望。

「駅から遠いとお客さんがたどり着けないので、良い距離感です。まちの喧騒から抜け出してホッとできる、“北千住駅東口のオアシス”を目指しています(笑)」。

借りた物件は築60年の2階建ての民家。学習塾でもあったようで、階段には子どもの落書きが残っています。玄関は昔ながらの引き戸で、床はフローリング、部屋はいくつかに分かれていました。梁を抜かない条件でリノベーションが許され、施工は北千住にある『横松建築設計事務所』に依頼。

「2階に住みながらリノベーションしたので、粉塵の中で寝泊まりしたのは大変でしたね(苦笑)。商品が引き立つようにお店はシンプルにしたくて、窓枠の色ひとつとっても、モノを邪魔しない素材や色を吟味しました。壁は写真も映えるように白く塗りました」。

 

リノベーション中。床はフローリングをはがし、モルタルを流して最初の高さより下げ、空間を広げている。

 

天井にある白い梁はそのままに。いずれギャラリーとしても機能するように、天井にはライトを取り付けている。

 

昼間は自然光がたっぷり入る明るい空間で、夜とは違う表情を見せる。

 

田代さんの心配をよそに、口コミなどでファンは増えています。今ではご近所さんが差し入れを持って来てくれたり、町内会の餅つき大会に誘われたり、すっかり地域に溶け込んでいます。近隣の飲食業の人とも互いのお店を行き来したり、休みの日に一緒に飲みに行くこともあるそう。昼間はなんと、小学生のお客さんまで!

「最初は学校帰りの小学生が窓越しにこちらを見ていました。やがて彼らと話をするようになり、今ではカウンターに小学生がずらりと座っていることもあるんですよ。お喋りしたり、絵を描いたり、お茶を飲んだり…。後日家族で食事に来てくれたこともありました。ご近所さんとのお付き合いがこんなに深くなるとは、中目黒で出店していたらあり得なかったでしょうね(笑)」

 

夜のバー営業中も買い物ができるので、飲みながら商品を選ぶお客さんもいれば、昼間買いそびれたと慌ててプレゼントを買いに来るお客さんもいます。オープン当初、夜のバー営業は週末が中心でしたが、2019年12月から営業日は毎日バー営業をし、それに伴い買い物も深夜12時までできるようになりました。2020年2月には1周年のイベントを開催し、多くの常連客が集まり、人の輪の広がりが嬉しかったと田代さん。5月には今までクローズしていた2階をギャラリーとしてオープンする予定。すでにリノベーションを終え、オープンに向けて着々と準備をしています。

 

美しい佇まいのモノに触れ、モノを生み出した作り手に想いを馳せる。そして、大切に作られた食を味わうひととき。静かに本を読みながら飲む人もいれば、たまたま居合わせた者同士で会話を弾ませる人もいて、過ごし方はさまざまです。

店名の”baku”は、悪夢を食べる想像上の動物がモチーフ。悩み事があっても、失敗して落ち込んでいても、ここに来れば浄化されていく気がします。店を後にすると、なんだか幸せな気持ちが宿って、夢見心地で家路につける。それは単にお酒の力だけでなくて、モノに宿る力だったり、いつでもやさしい眼差しでひとりひとりと向き合う田代さんの力なのかもしれません。

 

<お店データ>

select gallery & bar “baku”

千住旭町21-10 ☎03・5284・7545

【営業時間】

13:00~24:00

<バータイム>18:00~24:00 ※チャージ500円(税抜)

【定休日】不定休(基本的に火曜)

※休み、営業時間はインスタグラム「baku_tokyo」で確認を

2020年4月現在、新型コロナウイルス感染拡大を受け、営業状況は上記の通りではありません。

イラスト:秋山弥生

取材・原稿:西谷友里加

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