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空き家からはじまる新しいまちづくり

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『横田青果店』店主・横田清重さん

100年近い歴史を誇る、人情溢れる青果店

 

 

近年では、住みたい街ランキングにも登場するようになった千住。交通の便がよく、駅ビルもあり、グルメな人が集う飲食店も続々とオープンし、
一方で昔ながらの商店街や路地、銭湯、古民家など、昭和っぽさも色濃く残っています。
そんな新旧が交差する千住のまちの中でも、東京電機大学の誘致で大きく変わりつつある北千住駅の東口エリアを中心に、そこで働く人、暮らす人を紹介していきます。

 

今回は、100年ほどの歴史を持つ『横田青果店』の店主 横田清重さんを紹介します。

 

電車は5つの路線が行き交い、関東の駅の中でもトップクラスの大きさを誇る北千住駅。北千住駅のそばにある大踏切から東武牛田駅までを繋ぐのが「千住東町商店会」。北千住駅側から歩くと、新しいお店がここ数年でずいぶん増えましたが、その中に1軒、風格ある建物が目を惹きます。

 

建物は築85年ほどになる『横田青果店』。東日本大震災で瓦は被害を受けたが、しっかりした柱のお陰で、現在もほぼそのままの姿を保っている。

 

生まれも育ちもずっとこの家と一緒

 

お店には近隣住民と思われるお客さんが立ち寄り、「〇〇はないの?」「今日は水曜で市場が休みだから、ごめんね~」など、会話が繰り広げられています。親しみやすい笑顔で声をかけるのは、3代目店主の横田清重さん。

初代は乾物商で、横田さんのお父さんが大正13年に八百屋に商売を替えました。初代から数えると約105年、八百屋になってからは94年(2019年現在)。お店の裏に住まいがあり、かつては11人家族の大所帯だったことも。横田さん自身、この家でお産婆さんの手によって生まれ、今ではあうんの呼吸でお店に立つ奥さんと家庭を築き、一度も引っ越すことなくここで生活をしています。

 

乾物商をしていた時の看板。店内には思い出の写真などもちらほら見受けられる。

 

「この店は風情がいいって言われるけど、昔はこんな店はこの辺りにいっぱいあった。10年ぐらい前まで、踏切のところから洋品店、豆腐屋、金物屋、炭屋、宝石屋、米屋、餅菓子屋…っていろんな個人商店があったんだよ。でも、継ぐ人がいなくて畳んだお店が多いし、東京電機大学が建って再開発が進んで、ずいぶん様子が変わったよ。うちの店だけ時間が止まっている感じだよね(笑)。鉄道の基礎をやってた親戚のおじさんに建ててもらったから、土台はしっかりしているよ。東日本大震災の時は、瓦がやられただけだったからね」と、横田さん。

 

 

店主の横田清重さんは1949年生まれ。近所の小学生から年配のご婦人まで、気さくな横田さんとのお喋りを楽しんでいる。

 

近所の人が安心して立ち寄れる 懐の深い場所

 

お店は間口が広く、風通しがよい。強い日差しで野菜や果物がやられないように、北側に向けて建てられています。日が沈む頃には少し涼しい風が吹き抜け、買い物カートをひいたご婦人がカートに腰かけ、横田さん夫妻とお喋りをしてひと休み。

そうかと思うと、元気な小学生の男の子がお店の中に入ってきて、横田さんにじゃれています。お孫さん?と尋ねると、横田さんは笑います。

「違う違う! 近所の子なの。いろいろ珍しいみたいで、よく来るんだよ」。

男の子はお店の中を行ったり来たりし、横田さんが漬物樽を開けると興味しんしんな様子でのぞき込み、バックヤードの備品を見つけては横田さんに尋ねます。すると、横田さんは「やってみるかい?」と言い、じゃがいもの袋詰めを男の子に教え始めます。「できたー!」という男の子に、「こっちのより少ないんじゃない? ほら、この小さいのを出して、これを代わりに入れてごらん」と言うと、男の子はしばらく作業に集中。

 

じゃがいも詰めのお手伝いをする、近所に住む男の子。袋いっぱいに詰めて、袋の口を留めるところまで手を抜かずにね~。

 

 

スーパーではなかなかお目にかかれない、今や懐かしい光景。昭和の商店街では日常だったであろう温かさがそのまま残っています。

「商店街には飲食店が増えているけれど、食材や日用品が買える個人商店はどんどん減っているよね。スーパーに行けば、夜遅くても欲しいものを一度に揃えられて便利だもん。それでもうちに買いに来てくれる人がいることはありがたいと思っているよ。うちは三人娘だから跡継ぎがいないけど、通ってくれる人がいるうちは頑張らないとね。朝は4時半に市場に行って、10時半頃までは近所に配達に出かけているんだ。自分がいない間は、母ちゃんとパートさんがお店を守ってくれてる。母ちゃんは強いから、頭が上がらないね(笑)。

お客さんは長く通ってくれている人も多いから、絶対に嘘はつけないよ。例えば、果物が入ったパックの上の段はきれいなのに、下の段は傷んだのばっかりってことは、品不足の時でも絶対やっちゃいけない。最近は1人暮らしのお年寄りも多いし、学生さんも増えたでしょ? 昔はきゅうりでも1盛いくらという売り方が普通だったけど、1人で食べきれないから、1本からでも売っているし、時代に合わせて変えているところもあるよ」。

 

店先には旬の野菜や果物がずらり。定番人気の漬物の他、夏は蒸かしたてのとうもろこしもおすすめ。

代々守り継がれた 名物の漬物

 

 

常連さんの心をつかんで離さないもののひとつが、漬物。ぬか漬けは夏を中心に、カブ、きゅうり、キャベツ、にんじん、大根などが店頭に並びます。ぬか漬けを漬けるぬか床は、なんとおじいさんの代から3代に渡って守っています。

「色々食べたいなら午前中にお店に来ないと売り切れちゃうよ。年季が入っているから、うまいんだ。うちのぬか漬けは、隠し味に酒粕を入れてほんのり甘みもあるよ」

 

先々代から毎日手入れしているぬか床。野菜から出る水分は、スポンジで吸い取るのがコツ。「旨みのもとのぬかはとらず、水だけ取り除いてくれるんだ」。

 

 

11~2月頃の寒い時期は、たくあんや白菜を大きな樽で漬けます。お店の裏手にある倉庫に案内してもらうと、そこには大きな樽や漬物石がずらり。「これ、見てごらん」といたずらっぽく笑う横田さんの指さす方には、クレーンのようなものがあります。なんと、漬物石を運ぶために特注したそう。

 

漬物石を運ぶためのクレーン。石は1個でもとてつもなく重く、女手ではびくともしない。

 

1個の樽に巨大な石を3~4個も積み上げる。

 

「八百屋は力仕事が多いから、膝を痛めちゃってね。昔は漬物石をいくつも運んだけど、自力でできなくなって、機械をつけちゃったの。ここまでする八百屋、なかなかいないよ(笑)。たくあんだけでも14個の樽があって大変なんだけど、みんな楽しみにしてくれるからさ」。

そう言って笑う横田さん。お客さんがみんな優しくて、自分のことのように心配してくれるのもこの街の好きなところだと言います。

「自分よりずっと年上のお客さんもいて、ちょっとでも偉そうなことを言うと“ガキの頃から知ってんだぞ”って言われるよ(笑)」。

生まれ育った場所で移り変わりを見てきた横田さん。時代の激しい波に飲み込まれそうになっても、この建物のように動じず、まだしばらくはここで、街の人たちを見守ってくれそうです。

 

 

 

<ショップデータ>

横田青果店

千住東2-6-13 ☎03・3881・3006

【営業時間】9:00~19:00頃 【定休日】日曜・祝日

 

 

※この記事は、『町雑誌千住』Last号の取材記事をもとに構成しています。

イラスト:秋山弥生

取材・原稿リライト:西谷友里加

 

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